カテゴリー: 落書き

トレリド俳優パロ

ドラマ『ツイステッドワンダーランド』のトレイ・クローバー役トレイ・クローバー×リドル・ローズハート役リドル・ローズハートの薄暗い話

・リドル(役者)がボージャック・ホースマンみたいに堕落してる

・トレリド以外の肉体関係あり

・全体的にキャラ崩壊気味

 


 

『永遠の赤き美少年、今夜はカラスと一夜を過ごす』

 十年以上も前の共演者が、かつての学園長役と合意の上で寝たというだけのことを、ゴシップ紙が騒々しく書き立てる。治癒しなかった古傷に偶然剃刀が触れた時のような痛みを無視して、俺はそれをゴミ箱へと投げ捨てた。

『リドル・ローズハートを演じることはそう難しいことではありませんでした。学問と魔法を演劇に置き換えれば、彼とボクとは同じ環境で育った双子のようなものでしたから』

 もう少し真面目な——発行部数も少ない雑誌では、過去の虐待のさりげない告発のようなインタビューが載っている。こちらの方は誰にも省みられることはないのだろう。世間は今や、見た目と演技力の割にわがままで放埒なお騒がせセレブ“リドル・ローズハート”に夢中だ。俺はインタビューのページを大事に切り抜いて、ひっそりとファイルに閉じた。

 もうあの子たちはどこにもいない。15歳で17歳を演じていたあの子も、20歳で18歳を演じていた俺も。

 楽屋のすみで一人、あの子は何度も台本を読んでいた。エース・トラッポラ役エース・トラッポラとデュース・スペード役デュース・スペードは話しかけたそうにしていたが、何度かすげなくされたようで、すっかり突き放してしまっていた。そんな三人を生徒役の中では年長の俺とケイト・ダイヤモンド役ケイト・ダイヤモンドは気にかけていて、気を揉みに揉んでようやく、ハーツラビュル5人での交流を持つことができた。その時のオフショットはどこへ行ってしまったのだろう。ケイトがアップしたSNSはもうサービス終了してしまっていて、そう簡単には掘り起こせそうもない。

『トレイ……! 本当にお菓子が作れるの!?』

『簡単なものだけだけど……役作りのために練習したんだ。ほら、最初の1ピースはお前に、だろ?』

『でも……ボク……甘いものは……』

『リドル。甘いものを食べるのも、“リドル”の役作りだと思わないか?』

『……っ』

 そうして俺が作った簡単なケーキを食べるリドルのとろけるような笑顔は、もう見られない。俺の脳に焼きついているだけだ。保存しておけばよかったのに。

 何度もレッドカーペットを歩き、高級住宅街住まいの彼と、“名バイプレーヤー”と呼ばれ始めたばかりでまだまだ慢心は禁物、アパルトマン住まいの俺とが接触することはもうないだろう。彼のことは美しく切ない思い出にして、今は堅実にキャリアを築くことに集中するべきだ。

 

 

 

 そう、思っていたのに。

「トレイ、キミもボクと寝たい?」

「久しぶりに会っていの一番に聞くことか?」

 出演したドラマの打ち上げのようなパーティーに、どういうわけか彼もいた。どうやら続編のメインキャストに内定していて、その縁らしい。そんなことをペラペラと漏らしてはいけない。やんわりと告げると、『リークされたってドラマの出来はどうせ変わらないよ』とカクテルを飲み干した。赤い液体の名は、たしかエンジェルフェイス。天使のような美貌の彼にはよく似合っていた。バーカウンターに肘をついて、彼はこちらを見上げる。

「そうやって昔の出演者全員を口説いて回ってるのか?」

「役者だけだよ。ケイトはエージェントになってしまっただろう? キャスティングに関わる相手とはしない主義だからね」

 それで、どうするの? と言いながら彼はおかわりのカクテルを受けとる。今度はホワイトレディ。ジンがお気に入りらしい。彼がそれを飲み干すのを待たずに、その華奢な腕を引く。パーティーを抜け出して、バレーサービスに愛車を持ってこさせる。

「……へえ、キミも、そうなんだ」

「早く乗れ。またスクープされたいのか?」

 自分から誘ったくせに、失望したような目でリドルは俺を見る。その色は、この街の夜のように濁っていた。

 

 

 

 ベッドに倒れ込んだリドルの手は震えていて、俺は覆い被さるのをやめる。

「いくじなし」

「怖がってるわけじゃないだろ。……いつからだ」

「……さあ、ね」

 彼の震えは、おそらくアルコール依存だ。冷蔵庫から出した水のボトルを、リドルが受けとるまで押しつける。

「セックスする気もないくせに、ボクさらったの? ボクに魅力を感じない?」

「……別にセックスしなくたっていいだろ。“幼馴染み”なんだから、久しぶりに思い出話でもしよう」

「フィクションだろう、あの関係は……」

 椅子に座ってテレビをつける。プレーヤーには『ツイステッドワンダーランド』のディスクが入ったままになっていて、リドルが「やめてくれ」と言うのも構わず再生ボタンを押した。リドルは、そこで初めて呆れたように笑った。あの頃のように。

「キミにとっても、あの頃は特別だった?」

「……ああ」

「……ボクもだよ。……あの頃のオフショットは、すべて保存してる」

「本当か?」

 ベッドの隣に腰かけて、彼の端末の画面を一緒に覗き込む。彼が画面スワイプすると、今よりずっと画素数の少ない写真が、次々と映し出された。俺が見たかった写真はすぐに見つかった。

「なんだか記憶よりもケーキが不味そうだ」

「そう? すごく美味しかったよ」

 けれどリドルの笑顔は、記憶そのままに眩しかった。

「一番のお気に入りはこれ」

 リドルが指差した写真に、リドルはいない。幼少期のリドル役、チェーニャ役、トレイ役の子役たちとリドルの母親役の俳優とが、なごやかにランチをしている写真だった。

 リドルの母親を演じた彼女は実に情に厚い人で、回想のシーンを演じきったあと子役たちをギュッと抱き締めてわんわん泣いた。

『ごめんね、ごめんねえ、怖いことは全部嘘なのよ、現実に戻っておいで、戻っておいでね……!』

 それが羨ましかった、とリドルは溢した。

「ボクを現実で抱き締めてくれる人は、どこにいるんだろう……」

 たまらず俺は、リドルを抱き締める。

「ねえ、今日は一緒に寝てもいい? ……何もしないから」

「……勿論だ」

 お前はここにいる、とリドルが寝入るまで、背中をあやすように撫で続けた。カット、と号令をかけてくれる人はどこにもいない。

 


ドラマ『ツイステッドワンダーランド』でトレイ役とリドル役を演じた二人が、リドルがボージャックとかサラ・リンみたいに身を持ち崩した頃に再開して、同棲をはじめ、リドルにとってトレイは聖域になるがトレイはリドルに段々劣情を催しはじめる……みたいな話はピくログでしてたんですが、こんな形になるとは。

実写版ワンピースのアーロン一味と子ナミちゃんとベルメールさんのオフショットがめちゃくちゃよかったので、ローズハートママ役の人も子役ちゃんたちをハグしてくれてるといいな、と思いました。

乙一の『カザリとヨーコ』の実写版の撮影裏で、娘を虐待する母親役の役者さんが、撮影が終わった直後に娘役の役者さんをぎゅっと抱き締めて謝ってたのも思い出しつつ。やっぱ演じる方も精神にくるよね……。