練習問題①文はうきうきと
問1:一段落~一ページで、声に出して読むための語り(ナラティブ)の文を書いてみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p31より引用)
この時空のトレリドです。
眠れない? 一体どうしたんだ? ……怖くて眠れない? さっきお父さんがしっかり鍵をかけたのをお前はちゃあんと見てただろ? 安心しろ、怖いことなんて何もないよ。この子供部屋は世界一安全だよ。……窓から影が入ってきたって? ……確かに泥棒と違って、影や光は鍵なんて気にしないか。でも影は影だよ。何もできっこないさ。持ち主にくっついていることしかできないよ。大きな怪物に見える? 飛び回る男の子に見える? 悪い魔女に見える? 見える、見えるだけさ。そこに本当のものは何も無いよ。ほら、目を閉じるんだ。瞼の裏で本当のものをひとつひとつ思い浮かべて。夜空を流れていく雲や、通りに立った信号や、窓の外のクルミの木を、閉じた目でひとつひとつ見るんだ。
……今度は音がする? クローゼットで何かがカタカタ動いてるって? クローゼットの向こうにはケイトの部屋があるだろ。ケイトが仕事してるだけさ。(あいつめ、キーボードの音が大きいぞ)廊下をギシギシ歩く音がするって? お前たちがパパを離してくれないから、お父さんが様子を見に来ただけさ。それでもお前たちはモンスターがいるっていうのか? 絵本で読んだモンスターの話がそんなに気になるのか? モンスターたちがいるなら、きっと夢の中だよ。夢の中で街を作って、楽しく暮らしてるはずだ。モンスターはお前たちのよろこびが好きなんだ。街の灯りはお前たちの笑い声で光って、街を行く車はお前たちと一緒に走るんだ。お菓子も? ああ、お菓子もきっと作って食べてる。マロンタルトもきっとあるよ。クリームがなめらかなやつだ。早く夢の中に入ってモンスターたちと一緒に食べておいで。