練習問題①文はうきうきと
問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情を抱いている人物を一人描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現させてみること。
『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p33
紹介するよ、新しい仲間の——とソロモンが告げなくても、広間に立っている姿を一目見た時からその名はイポスの脳の中で響いていた。ウァレフォル。ウァレフォル。ウァレフォル! 細い突剣のしなりと、重い曲剣の確固さとがせめぎ合った時の耳障りな金属音。命を散らしていく傭兵と盗賊たちの野太い断末魔。目の前に立ちはだかる相手がまだ生きている証し、吸って吐く息。頭が沸騰するほど血なまぐさい怒りの記憶がきりきりと響き渡る。いや、それだけではなかった。しなやかに筋肉質で背の高い金髪の女を見つけた時、イポスの中に満ちた響きは怒りや殺意だけではなかった。それは、喜びでもあった。大切に個としての名を記憶するほどの相手が、再び目の前に立っている。よくよく見れば美しい顔立ちの要、片眼は眼帯で覆われている。その意味を理解した時、剣先が彼女の顔を走った時の感触がイポスの中でゾクゾクと再生された。自分が奪ったものだと思うとより一層、本当に美しく思えた。
「よう——“はじめまして”だな」
いつかその眼帯をめくってやりたい。そんなことを思いながら、イポスはいたって平静な声色顔色で、彼女に左手を差し出すのだった。