Straight Up - 1/2

ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート

Straight Up=ルーレットの一点賭けのこと。

1月8日のトレリドワンドロ・ワンライに参加させていただいた作品です。
お題『賭け』『誘惑』お借りしました。

胴元くんはこの後マジで数年かけて全額払ったかもしれないし、あるいは細々とした雑用を10000回くらいやらされたかもしれない。ご想像にお任せします!

 

「残念ながら今週も動きは無し……と。へへへっ、じゃあ今週分は俺の総取りってことで! 悪ぃなぁ!」
チクショー、まーた動きなしかよ、と口々に残念そうな声を上げる寮生達の前に、ハートのスートを右目の下に塗ったその三年生はカレンダーのカラーコピーを広げる。
「さあ、張った張った! 日にちでピタリ当てたら10倍、どっちから告るか当てたら7倍だよ! 両方当てたらなんとなんと70倍だぁ! 週や直近一ヶ月の曜日からでも賭けられるぜ! 勿論倍率は下がるがね!」
寮生たちはカレンダーに付箋を貼りながら、談話室に響きすぎない声で煽るハートの三年生にマドル貨幣を手渡していく。付箋には賭け金と自分の仮名、――そしてこれは無いものもあるが――薔薇かクローバーのマークが印されていた。賭けの対象になっている両片想いの二人に動きがなければ、過ぎ去った日にベットされた分は胴元である彼の取り分になる。彼は温まった懐を思ってほくそ笑んだ。彼の持つ読心のユニーク魔法は、範囲や発動条件などに制約の多い不安定でごく弱いものだったが、こと他人の恋愛感情に関して言えば正確なものだった。
彼が想定したよりもその賭けは大規模なものになっており、そして彼は儲けのことばかりに気を取られてそのことについて深く考えてはいなかった。皆声を潜めているとはいえ、談話室に開かれた即席の賭場は賑わい過ぎていて、コツコツと床を叩くハイヒールの音に気がつくことができなかったのだ。
もういないか、もういないか、と締め切ろうとしたその時、凛とした声がざわめきを射ぬいた。
「――来週の水曜日。トレイから」
「……げえっ! 寮長!?」
賭けの対象の片割れその人、リドル・ローズハートがそこに立っていた。にっこりと微笑んでいるその顔は一見してまるで美少女のように愛らしいが、額には青筋が浮かんでいる。怒りが一周して表情を振り切ってしまったらしい。
こ、これはですね、と上擦った声で取り繕おうとしたハートの三年生に、「キミが胴元だってことはとっくに調べがついているんだよ」と追い討ちをかける。賭けに参加しようとしていた者たちは、付箋を手の内に握りつぶして一歩引き、野次馬の距離を取っていた。
「賭け金は――そうだね、1000マドルにしようか」
リドルが叩きつけた紙幣に、群衆は息を飲む。これまでこの賭けで飛び交っていたのは基本的には硬貨であり、紙幣が飛び出したことはなかったのだ。そして来週の水曜日に貼られている付箋は一枚もない。そもそも、70倍を狙おうなどという無鉄砲はほとんどいない。当たれば、7万マドルのリターンになる。それは丁度、胴元が荒稼ぎした金額を帳消しにする程度の額だった。
リドルの顔から笑顔が消えた。いつもの凛然とした眼差しで、胴元を睨む。
「それでおしまいだ。これに懲りたら他人の恋路をダシにふざけた賭けをするのは金輪際やめるんだね」
法律や校則以前の問題だよ、と言い置いて、女王はすっかり静まり返った賭場を後にした。