輝ける黒星/いたくして (Web拍手お礼ログ) - 1/2

メギド72/サレオス×ネフィリム

Web拍手お礼の再録です。
『輝ける黒星』
お礼設定期間:2022年1月22日~3月21日
『いたくして』
お礼設定期間:2022年3月21日~6月8日

 

輝ける黒星

 

「あ、上がりですっ……!」
「ネフィちゃん、弱~い」
「うう、どうしてなんでしょう……?」
アジトに立ち寄ったサレオスは、ホールで足を止めた。珍しく、ネフィリムがカードゲームに興じている。一緒にテーブルを囲んでいるのはスコルベノトとコルソン、それにお馴染みのぬいぐるみたち——今日はスコルベノトによってか、リボンを巻いている。スカイエンパシーではなく、ごく普通のトランプ、大富豪のようだった。
「負け続きかい?」
「あ、サレオスさん」
ネフィリムはカードをかき集めながらサレオスを見た。敗者がカードを配る、という取り決めがなされているらしい。
「サレくんもやるの~?」
「いや、俺は見てるだけにするさ」
サレオスは、次のゲームが始まってすぐ気がついた。——ネフィリムは、勝負ごとに向いていない。
カードを配り終えた後にコルソンが「コーちゃん2が欲しいな~」と言い出したらあっさりと差し出してしまうし、スコルベノトが「今回は3が最強ってことにしませんか?」と存在しないローカルルールを唱え出しても、二つ返事で採用してしまう。そもそもこの面子ではゲームとして成り立っていないようなものだ。
「お前らなあ……」
「えーっダメなの~?」
「そんなあ……」
見かねたサレオスが仕切り直してカードを配り、ルールも調停する。なぜこんなバラムみたいなことをやっているのか、と思わなくもなかったが、なんとなくネフィリムが”勝つ”ところを見てみたくなったのかもしれない。
しかし、その後の数ゲームでもやはりネフィリムは最下位になってしまった。向かいから見ていたサレオスにはよくわかったが、ネフィリムにはポーカーフェイスができない。手元に来たカードで一喜一憂する様が、思い切り表情に出てしまう。平然としてみせたりブラフをかけたりするのが上手いのは、この中では意外にもコルソンだけのようだった。一度指摘してからはキリッとした表情を頑張って作るようになったが、ふわふわの耳や周囲を漂う目玉たちが正直過ぎる。ぴょんと立ち上がったり、ぺたりと萎れたり。特定のカードの前でじっと留まったり。これはこれで見ていて飽きないな、とサレオスは思う。

結局、ネフィリムが大富豪になることはないまま、スコルベノトが帰る時間になってお開きとなった。結局一度も勝てなかったはずなのに、ネフィリムは終始にこにことしている。
「とても楽しかったです……!サレオスさんもやればよかったのに」
「何がそんなに楽しかったんだ?」
「だって、大きいままだったら全部見えちゃうじゃないですか?」
なるほど、負けるということ自体が、今の大きさでなければできないということで、ネフィリムはそれを楽しんでいたらしい。
戦争社会では、勝ち取ることが全てだ。メギドラル時代、防衛を主な任務としていたサレオスは、目をギラつかせて挑んでくる者たちをいくらでも見てきた。
あまりにも巨大なネフィリムは、はじめから勝ち取ることなしに圧倒的な優位性を持っていた。他者に”分け与える””譲る”ことに何も疑問を抱かないほど。小さな者たちが、勝手に死んでいくのを文字通りの上から眺めている分には、勝ちも負けもないのだろう。
たかがちっぽけなカードゲームで、初めて同じ目線になって得た”負け”は、ネフィリムにとっては漫然と得てきた”勝ち”以上の価値がある。
「まあ、それがお前さんらしいか」
では、もしもネフィリムが、心底”勝ちたい”と願う時が来るなら。何を巡ってのものになるだろう?どんな表情をするだろう? と思うサレオスは、完全に他人事で。
ずっと後になってから「好きです」とネフィリムが自分を壁際に追い詰めて言ったその時、ゲームの時に頑張って眉をつり上げていた表情に似ているな、と思い出してつい笑ってしまったのだった。