ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート
Web拍手お礼の再録です。 『かわいいサイズ』 お礼設定期間:2022年1月22日~3月21日 『XYZ』 お礼設定期間:2022年3月21日~6月8日 ※成人後同棲設定
かわいいサイズ
リドルの身長が25メートルになって、数時間が経過した。
失敗した魔法薬の不始末によるアクシデントで、憤慨したリドルはいつものように地団駄を踏み、咆哮をあげようとした。しかしそれが、いつもならちっぽけなだけの振る舞いが、ハーツラビュルの美しい庭に被害をもたらすとわかると、ハッとして踏みとどまった。そうしてパーティー会場のそばの少しだけ空いたスペースに膝を抱えて身を縮めている。
「不便だけれど……見下ろすのは気分がいいね」
「寮長ー! 次こっちお願いします!」
はじめは規格外の大きさをもて余していたものの、明日のなんでもない日のパーティーの設営を、ドールハウスの小物を並べるように済ませていくうちに、リドルは少しずつ上機嫌になっていった。こうした力仕事で寮生に頼られることは滅多にない。縮み薬はまだかまだかと膨れていたくせに、「そんなに急がなくてもいいよ」と言い出す始末だ。
「リドル、腹減っただろ? 腹の足しになるかはわからないが、作ってみたぞ」
「トレイ!? 一体どうやって作ったんだい、それ!?」
トレイが台車に乗せて運んできたのは、大窯いっぱいに作られたプリンだった。今のリドルにとっては大きめのマグカップ程度の大きさでしかないが、デュースが度々出現させているようなそれは、普段のリドルと同程度の高さがある。作るには想像を絶する工夫や苦労があったことだろう。
「キミにここまでさせるなんて——」
「リドル、俺はお前にそういう顔をさせたくて何ダースもの卵を割ったんじゃないんだ。まずは食べてみてくれないか?」
浮かれていた自分を恥じて俯きかけたリドルに、トレイがスプーンを差し出した。より正確に言えば、それはどこから調達したのかピザ窯にピザを出し入れする際に使われる柄の長いパドルだったが。
「……美味しい……! とろりとしていて甘い……!」
「普段は固めに作ることが多いからな——でもちゃんとある程度は固まってたみたいでよかった。焼く設備がないから、氷魔法で固める方針にしたんだ」
自然と頬を綻ばせていくリドルを見て、トレイはにっこりと笑った。徐々に機嫌自体は良くなっていたにしろ、色々なものを壊してしまわないよう気を張っていたのだろう。大窯で調理するものに甘味を選んだのは、それが少しでも解れるようにと思ったからだ。
「トレイ先輩、作ってる時めっちゃくちゃ楽しそうだったね……いや俺らも巨大プリン作るぞ! って言われてテンション上がったけどさぁ!」
「かき混ぜすぎて二の腕に力が入らない……」
トレイ自身、作ってみたかったというのもあるが。
こき使われた後輩たちのぼやきのほとんどをトレイは聞き流していた。スプーンを口元に運ぶ動きを注視するので忙しかったからだ。いとおしそうに少しずつプリンを食む唇。たまにちらりと垣間見得る白い歯や赤い口腔。元々トレイはリドルの口に対して強いフェティシズムがあったが、こうして普段の160倍に拡大されているのを眺める機会が来るとは。なんだか、その中に入っていくプリンを羨ましく感じてしまったトレイだが、特にそれを異常な性癖だとは思わなかった。
「——ごめん——じゃなくて、ありがとう、トレイ」
食べ終わったリドルが差し出した手のひらに、トレイは躊躇いなくヒョイと乗る。
「目線を合わせるのも一苦労だね——やっぱり、早く元に戻りたいな」
「今ケイトがクルーウェル先生と頑張ってるからな、もう少しの辛抱だ」
鼻先に手を伸ばして撫でると、リドルはくすぐったそうに笑った。
「でも、このサイズのキミやみんなは少し……その、かわいいかもしれない」
リドルの指がそっとトレイを撫で返そうとして、寸前で止まった。力加減を計りかねているのだろう。トレイはそれに自分から頬を寄せた。どんな大きさだってリドルはかわいい、と視線に熱を込めながら。