芽吹きのデート

キラッとプリ☆チャン/緑川さら×桃山みらい

推しカプを賭けたマリオパーティで負けて書いたさらみらです。短い。

この桃山は腹黒とかネガティブとか擦れてるというよりはちょっとドライで冷静で、緑川ってやつァ客観的に見たら“こう”なんだよな……という感じです。
一方この緑川は桃山のことが好きなのでルンルンの浮かれポンチです。

 

かわいいものたちを見つけてとろける緑川さらの横顔を、桃山みらいはかれこれ20分以上もにこにこと見つめている。みらいたちの住むところからはバスで30分程度、プリズムストーンなどがあるキラ宿の中心地からは反対方向にあるモールは空きテナントが目立ち、お世辞にも流行っているとは言い難い。このファンシーショップだってどこにでもある、それこそキラ宿にだってある品揃えの店だった。けれど緑川にとっては宝の山なのだろう。緑川は、かわいいものに相対した時の醜態を、桃山以外には見せたがらない。ゆえに桃山は、“デート”に誘われた時、地元から少し離れたこのモールを教えた。
緑川の好きなものを桃山はよく知っている。かわいいもの、ギター、そして、女の子。その中に自分が入っていればいいのに、と願うこともあれば、その中に入れられるのは嫌だ、と思う時もあった。
(きっと、わたしはさらちゃんの“特別”じゃないから)
“デート”に浮かれてはならない。きっと、たまたま桃山だけが緑川の秘密を知ってしまったから——ただそれだけのことなのだ。桃山はポニーテールを振り、邪念を振り払うようにする。“デート”だと思うから意識してしまうのなら、幼馴染みの萌黄や青葉とショッピングに行く時のように、ただ何も考えず楽しめばいい。
「みらいくん、見て」
「え? 何?」
「ほら、これ。きっと君に似合うと思うよ」
緑川が手に取ったのは、フェイクパールが淡く輝くヘアピンだった。リボンでできた飾りが垂れていて、髪に挿したら可憐に揺れることだろう。淡いピンクのリボンのものと、淡いグリーンのリボンのものが2本セットになっていてどことなく春らしい色合いだった。
「そう……かな?」
「今日のお礼に、プレゼントさせてもらってもいいかな?」
「そんな、お礼なんていいよ~!」
「でも……いや、本当のことを言うと、折角のデートだから何か記念に残るものを贈らせて欲しいんだ」
ダメかな? と上目遣いの困り眉で笑う緑川。その端正な表情や、口から出た“デート”という響きに、桃山の鼓動は大きく跳ねる。けれど背筋は襟から氷を入れられたように冷えていた。
(他の女の子にもこういうことできるんだろうな)
こうして一緒にファンシーショップに行くのは秘密を共有する桃山だけの特権だと精一杯自分を慰めつつ、その優しさや気障な振る舞いは自分だけに向けられるものではないのだろう、と考える。それは嫉妬と言うにはどこか冷静でドライな分析だった。
「そうなんだ……じゃあ、二人で買って半分こしない?」
桃山の側にだけ“記念”を残して、緑川は何も受け取ってはくれないなんてずるい。そんな桃山の魂胆に、緑川はあっさりと乗るどころか、ぱああ、と破顔した。何度も「うん、うん!」と頷いて、小躍りしそうな勢いでレジへと歩いていく。その無邪気な後ろ姿に桃山は、考えすぎだったかな、とわずかな罪悪感を抱いていた。

「ああ、思った通り。とても似合っているよ」
ポニーテールを下ろした桃山の髪に、緑川はヘアピンを挿す。位置を微調整していた手が、桃山の頬を撫でる。どちらがいい、と緑川は訊かなかった。桃山の髪の色とは補色のグリーンのリボンが揺れている。その2色が一緒になっているだけで、緑川は子供のように嬉しくなってしまう。
モールのトイレの大きな鏡に映ったその顔は、ずっと我慢していたお菓子をやっと食べられた子供のようだった。その髪にも、補色のパステルピンクが揺れている。
「さらちゃん、次はどこに行く?」
髪型を新たにして、モールの中を歩いていく。その時指を絡めたのは桃山の方からだった。
ただ成り行きで、秘密を共有したことから始まった関係かもしれない。けれどこれからどんどん特別になっていく——そんな予感に、二人とも胸を踊らせていた。