骨を埋める/駆け寄る純情 (Web拍手お礼ログ) - 1/2

メギド72/サレオス×ネフィリム

Web拍手お礼の再録です。
『骨を埋める』
お礼設定期間:2022年6月8日~2022年8月6日
『駆け寄る純情』
お礼設定期間:2022年10月28日~2023年5月4日

骨を埋める

 

川底の死骸をさらう骸食主義者、だったのはもう昔の話で。転生後のサレオスの味覚は普通のヴィータと変わり無い。メギドとしての記憶を取り戻してからも。ただ一度だけ、故郷の人々をたった一人で埋葬しながら、ヴィータの自我とメギドの自我の入り雑じったところで、全員まとめて食べてやれれば、と思ったことを覚えている。
川というのは、“途中”の場所だ。流れる水も、渡ろうとするメギドも、幻獣も、留まってはいられない。好き好んでずっとそこにいられると思っていたサレオス自身でさえ、任務のために異界人へと転生してしまった。“冥河主”としてのサレオスが川底の死骸を食べていたのは、その底で“終わり”を迎えた者達へのせめてもの弔いだったかもしれない。不本意な“終わり”を迎えた者たちが、自分と共にあるように。もっとも、そのうちの少なくないいくらかを沈めたのはサレオス自身だったが。
死骸を引っかけるにはヴィータの身はあまりにも小さすぎる。任務を放棄して墓守をするには、メギドの心は乾きすぎている。だからサレオスは、埋葬を終えるとひとり故郷を後にした。メギドでもヴィータでもない歪でちっぽけなその身で、誰を弔えるというのだろう。誰を食べられるというのだろう。それきり、他者の死骸を食べたいなどと思ったことはなかった。

ネフィリムの指から、ネクタルの実の果汁が滴っている。熟れすぎていて、指で少し押すだけで果汁が染み出るようなものをネフィリムはよく好んだ。本当は追熟の域を越えて腐敗したものまで好むというが、アジトで暮らすようになり、ヴィータ体で食事をとるようになってからは控えている。自室で異臭を発生させ、フォカロルやニスロクにこっぴどく叱られたらしい。
ネクタルは、どこにでも自生している。ヴァイガルドの根無し草には馴染み深い果物だ。サレオスも時折摘み取ることがあるが、ネフィリムの好みを知ってからは、少しだけ余分にとるようにしている。アジトに立ち寄ったり召喚されたりするタイミングによっては、ネフィリム好みに仕上がっているというわけだ。
「サレオスさん、いつもありがとうございます」
「もののついでさ、気にするなよ」
潰さないようにおずおずと実をつまみ上げ、かじり、種だけをぺろりと吐き出す様子をサレオスは見下ろしている。最近のネフィリムは、椅子に腰かけたサレオスの隣の床、絨毯の上にぺたりと座るのを好んでいる。サレオスとしてはどうにも居心地がよくないが、ネフィリムは見上げるのが好きらしいので、飽きるまでの辛抱だと奇妙な上下位置を受け入れていた。
ごちそうさまでした、と全て平らげたネフィリムがサレオスの膝の上に頭をもたれる。おそまつさん、とサレオスはその頭を撫でた。形のいいヴィータ体の頭蓋も、骨だけになったメギド体も、自分の中に埋めてしまえたら。そう思っているのに気がついたとき、ごくりと唾をのんでいた。
ネクタルといいこの態勢といい、わがままを何くれとなくきいてしまうのは、すぐにその身を投げ出してしまって危なっかしいこの純正メギドを繋ぎ止めておきたいからかもしれない。けれどもし、どことも知れないところで命を落とすくらいなら。
「……お前さんは食いでがありそうだなァ」
「?」
ネクタルの果汁がついたままの指をぱくりと食む。その下の骨まで、今のままに甘酸っぱいといい。