楽園でウミガメのスープを
『無人島に連れていくなら誰? ただし、同じ寮の人は除く』。言われなくたって、リドルとは無人島に行かないと思う。逆に、もしも同じ寮から選ばなければいけないのなら、きっと相棒と呼べる仲のケイトを選ぶのだろう。バカンスでなくサバイバルを前提とするのなら、どうしたってリドルに苛酷さを強いたくないと思ってしまう。
では、もしどうしてもリドルと無人島で二人きりになってしまったら。
想像してみよう。獣や鳥がいて果実が実るそれなりに肥沃な無人島に二人きりならまだいい。あくまで普通の男としてサバイバル技術にそこまでの自信があるわけではないが、いざそうなってしまったならそこが楽園であるように邁進するのだろう。リドルが脱出に向けて奮闘するその傍らで。そしてその楽園から出ていこうとするリドルを、果たして引き留めずにいられるだろうか。
では、そこが何の恵みもない不毛の地なら。俺はいずれ己の肉を差し出すのだろう。まずは脚なら差し支えなさそうだ。サッカーは一生できなくなるが、リドルが飢えないのならどうということはない。その次は腕か。リドルに二度と料理を作ってやれなくなるのは惜しいが、この世には俺が作るもの以外にも美味しいものはある。とにかく生き延びさせるために、俺は『ウミガメの肉』を差し出し続けてしまうだろう。事実を知ったリドルがどれほどのショックを受けるとしても。
たった二人遭難した相手の狂気にさらされる苛酷さをリドルに強いるわけにはいかない。そしてこれらは、安全圏から思い描く酔狂な空想にすぎない。本当にそうした極限状態に至ってしまったら、きっと俺はもっとおぞましく、想像もできないような真似をするだろう。リドルだって、平常どおりではいられないだろうし。
「リドルは、無人島に一人連れていくなら誰がいい? ただし、同じ寮の中で」
「ハーツラビュルでかい? ならトレイ、キミに決まっているじゃないか」
おかしなことを訊くものだね、と即答してリドルはスープに口をつけた。今日は食堂がやっていない休日だ。だから昼食のメニューは俺が有り合わせの野菜でサッと作ったスープと購買のクロワッサン。
「キミとなら、どんな地獄からでも抜け出せるってボクは信じているんだよ」
ごく平凡な昼食をとりながら、リドルはドラマチックなことを言う。「そうだといいな」と返しながら、俺はリドルのためのメニューがいつもいつまでもありふれた素晴らしいものであることを願ってやまないのだった。