ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート
諸々詰め合わせです~! 『嘘つきにおねがい』 お題:願い、星空、嘘 2022年7月9日ワンライ参加作品 『指きらない』 お題:指切り とても短いトレリドの習作。 『赤と緑の美術館』 ブルームバースデーのトレイが美術館に行くエピソードに萌えて書いた、付き合ってないけどこの後付き合うトレリドです。『美術館で会った人だろ』より改題。それは駄目だろ……。
嘘つきにおねがい
トレイのことを嘘つきだと思ったことはない。彼ほど誠実で実直な男は他にいないと——そう思っていた。
「リドルさん、災難でしたね」
『興味深いものが見られそうだ』
「……ジェイド、キミ、面白がっていないかい」
「おや、バレてしまいましたか」
「……顔にも“声”にも出ているよ!」
その日の魔法薬学の授業では、本来“耳が良くなる薬”を作る予定だった。勿論リドルは完璧に薬を調合し、本校舎の食堂で今まさに準備されているランチのメインまで聞き取ってみせた。
けれど他の大窯は必ずしもそうではなかったらしい。リドルの隣で作業していた生徒の失敗作を頭からかぶったリドルは——既に作用していた本来の効果と失敗作とがどう作用したのかは定かではないが、他人の内心が聞こえるようになってしまった、らしい。
「大変だな~! ずっとそのままなのか?」
『大変だな~! ずっとそのままなのか?』
「今クルーウェル先生が解析にあたってる。だからお前の昼休み後の魔法薬学は教室で自習だ。だから間違って魔法薬学室に行くんじゃないぞ」
『さっきも説明しただろうが、同じことを説明させるな、まったく』
「他人の心が読めるとは——羨ましい! それができれば、どれだけ投資に活きるか……」
『黙っていればわからないものを、本当に馬鹿正直な人だな』
「アハッ、金魚ちゃん、じゃあ俺が今何考えてるかわかる~?」
『————』
すれ違う同級生たちに状況を説明して、二重に聴こえる声を鬱陶しく思いながらも、リドルはあまりこの状況を深刻に捉えてはいなかった。口に出す言葉と解離しているもの、ぴたりと一致しているものなど、様々な声を面白いとすら思っていた。ちなみにフロイドの内心の声はイルカなど海洋生物のようだった。何も考えていないのではないかと思うこともあったが、リドルにはわからない思考を持っているのだろう。
食堂に到着すると、席取りをしていたケイトがひらひらと手を振った。トレイの姿は見えない。
「リドルくん、おつかれ~」
『午前中の授業ダルかったな~でも顔に出すとリドルくんきっと怒るよね』
「……ケイト、お疲れ様。トレイは?」
一瞬、眉をひそめそうになるが、自由な内心に口を出すわけにはいかないと、ぐっとこらえる。
「中庭で舞の練習してるよ。スターゲイザーの」
「そう」
学年が違う友人たちとの時間を、リドルは大切にしたいと思っている。けれどトレイに対しては友情とはまた違う感情があるのも事実。うちに秘めたそれを表に出すのはまだ気恥ずかしく、またトレイは日頃から「リドルは幼馴染みだ」と強調しているので、リドルはつとめて素っ気なく反応したつもりだった。
『まったくもー、焦れったいな~! 会いたいのわかりやすすぎ!』
「っ!?」
「お昼、軽めにしてたから後で何か持っていってあげたら?」
『あんまり入れ込みすぎたくないけど……これくらいのアシストは、いいよね?』
「……そうするよ。——ケイト」
「ん?」
「ありがとう。キミがいてくれてよかった」
「えっ急に何!?」
星送りの衣の背中を、眺めているだけでも内側の何かが満たされていく感覚がある。しかしトレイは舞が終わるとすぐに振り向いて、「リドル」と名前を呼んだ。その声がやけに大きく感じられたのは、内心の声と重複していたからだろうか。
「トレイ。一人なの?」
「ああ。デュースは午前中の授業が長引いてるらしいな」
『一人で踊るのは嫌だが……あいつに教えられるよう、俺も確認しておかないとな』
「ふうん。いい心がけだね」
「? 心がけ?」
『今誉められるようなことを言ったか?』
「っ、何でもない。気にしないで」
『リドル、いつもと様子が違うな……何かあったのか?』
「なんでもないったら! ……そんなことより!」
内心の声と実際に発せられた声を混同してしまった。そんなミスを誤魔化すように、リドルは話題を変えた。
「トレイは、星送りで何を願うの?」
「うーん、まだ考え中だよ」
『リドルと付き合いたい……なんて願いたくはないしな』
「……えっ?」
『それは自分で掴んでこそ、だろ?』
トレイは、リドルの上擦った声に口を開いて答えることはなかった。ただじっとリドルの瞳が揺れるのをにまにまと眺めていただけだった。
「決まったら必ずお前に教えるから……楽しみにしててくれ」
耐えきれず目を逸らしてしまったリドルの真っ赤に染まった耳には、トレイの快活な笑い声だけが聴こえる。リドルは差し入れの飲み物を押しつけるように手渡すと、大股で中庭を去った。
『……嘘つき!』