ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート
トレリド覆面小説書きクイズ大会関連作です。 ※覆面小説書きクイズ大会→偽名で小説を提出して誰がどれを書いたか当てる遊び。 自分または他の人が出したお題から一つ以上拾って書く。私が出したお題は『闘争』、他の方が出したお題は『ぬい』『星空、星座』『デート』でした。 『愛着の隣』 提出サンプルに使用した、メギド72をプレイするトレリドです。 『激闘!!ぬいバトラー!!』 お題:ぬい、闘争 ※ぬいが負傷する描写があります。 ※「前回のあらすじ」がありますが、前回は存在しません。 実際に提出したトレリドです。ホビアニのようなエン某ェリックレイヤーのような遊びにハマるトレリド。学園内の治安が悪い。 『観測』 お題:星空、デート 「一人一作品とは書いてないよな……4人エントリーで5作品あったら撹乱できるかな……」という撹乱のために書いたけど結局提出しなかった作品です。天体観測デートするトレリド。 あの世界の星空、現代日本と同じではないと思いますが、少なくとも乙女座や蠍座はあるんだよなと開き直って2023年1月4日の空を参考に書きました。
愛着の隣
「悪い、邪魔したか?」
「いいよ、遊んでいたところだから」
トレイが声をかけたとき、リドルはスマホで何かを操作しながらノートにペンを走らせていた。てっきり寮の帳簿付けでもしていたのかと思ったのだが——
「ゲーム?」
「イデア先輩に勧められたんだ」
「今やってるゲームで“召喚”って言えばこれかな……悪魔となら変えられる未来があるッ! 一人の少年が、召喚した悪魔達と一緒に滅亡に立ち向かうフォトンドリブン世界救済RPGッ! ……まあ、別に召喚術の参考になったりはしないけどね」
「ならないのか……ならば用はありませんね。そんなものにかまけている暇はないので」
「そ、“そんなもの”……!? 人のプレゼンをそんなもの呼ばわりとな……!? …………アー、これは頭を使うゲームだけど、これなら反射神経使わないしリドル氏にもできると思うけど……それともっ……おやおやァ~? これも無理なんですかァ~? 【悲報】リドル氏、やっぱり脳筋だったww」
「っ、ウギ……!! 人を愚弄するのも大概にしてもらおうか……! たかがゲームでしょう、簡単にクリアして見せますよ!」
「あっクリアって言った!? 未完のソシャゲだからクリアはまだ無いんだがww……まあ、現行最新に追い付けなんて鬼みたいなことは言わないからさ、とりあえず主人公がタイトル回収するとこまで行ってみてよ」
「見くびらないでいただきたい、攻略して見せますよ! 最新まで!」
「……あのー、焚き付けといてなんだけどリドル氏大丈夫……? チョロすぎんか??」
事のあらましを聞き、同級生の意地の悪い三日月を思い浮かべながらトレイは苦笑した。
リドルがプレイしているのは、スマートフォンのRPGのようだった。複数のキャラクターにコマンドを送り、それぞれ異なる行動が相互に作用して敵にダメージを与える。特徴的なのは、画面中央に出現したコマンドを敵と交互に『取り合う』形式になっていることだった。
「確かにボクはコントローラーでの瞬発的な操作には慣れていないからそういったゲームでは実力を発揮できない。けれどこれは違う。ゲーム中のテキストを読み込み、攻略情報を下調べし、ダメージをしっかりと計算すればボクには造作もないことだ!」
ノートにびっしりと書き込まれているのは、リドルの“勉強”の成果だった。敵の行動を研究し、最適と思われる味方の組み合わせを何通りも列挙し、試行した結果を事細かに記している。
「立派な攻略本が作れそうだな」
ふふん、と誇らしげなリドルが語るゲームの内容にトレイは耳を傾ける。本人はハマっていないつもりだが、自分で考えて工夫したことを実践するプロセスに、しっかりと目を輝かせて夢中になっていた。
ノートは半分ほどが埋まっているが、途中で空白になっていた。ページをめくっていたトレイがそこで手を止めると、一転リドルはぐぬぬ、と苦渋をあらわにする。まだ勝算を掴みきれていないらしい。
「い、今は少し行き詰まっているけれど、すぐにでも突破してみせる……!」
「そんなに苦戦してるのか。どんな敵なんだ?」
「高い攻撃力でランダムにこちらを攻めてくるくせに、自分はターンの終わりに防壁を張ってこちらの攻撃を無効化するんだよ」
「それ……勝てるのか?」
「勝てるはずさ。一度不完全ながらも勝っているからね。先に進むこと自体はできるんだ」
「じゃあ早く先に進めばいいんじゃないのか?」
「このお情けの銀色の冠がどうにも気にくわない……! このボクが戴くのは金の冠以外ありえない!」
味方が全員生存状態で勝利すれば金色の冠が、一人でも戦闘不能になれば銀色の冠が輝くというシステムらしかった。
トレイはリドルのトライ&エラーの痕跡に目を通す。リドルはどうにも連撃による短期決戦に固執しているようだった。
「素人考えだが、この“ゼパル”ってやつにこだわりすぎなんじゃないのか?」
「“ターン終了時攻撃を3回無効にする”敵でも、彼女の6連撃なら3回攻撃が届く」
「それなんだが、そもそもその防壁を張らせなければ、アタッカーをそいつにこだわる必要も無いんじゃないのか?」
「確かにそういう手もあるけれど……」
授業での模擬戦闘でも、相手の強化を先んじて無効化してしまう戦術がある。それと同じような手を取れば、『相手の猛攻に耐える』『相手の防御を崩す』のうち、前者に集中して耐久しながらじわじわと削り取る勝ち筋もあるのではないか。
しかしリドルは、トレイが提示した方法などわかっているようだった。
「確かに、その方法ならもう少し一撃が重いアタッカーを採用することもできると思う。でも、どうしてかな……ゼパルがいいんだ。ゼパルと一緒に勝ちたいんだ」
“ゼパル”は、リドルの攻略ノートの初期から登場していた。人間としての外見はズタズタのウェディングドレスめいた服装のお転婆な少女だが、このゲームのプレイアブルキャラクターは誰しも悪魔としての本性を持つ。その姿は、少しだけハートの女王の時代のトランプ兵に似ていた。
「こんなの全く合理的じゃないと思う。これが、“愛着”というものなのかな、トレイ?」
「かもな……俺にもわかるよ」
トレイとてゲーマーではない。けれどその感覚には、多少覚えがあった。トレイにとってのそれは、弟妹と対戦ゲームをする際によく選択したキャラクターであったり、メジャーなRPGで旅のために育成したキャラクターであったりした。人は、きっと心の中にそういった愛着の椅子を持ち、何かを座らせる。リドルの中にも遅まきながらそれが芽生えつつあるのだと思うと、トレイは嬉しくなってしまった。
「勝つまで、隣で見てていいか?」
「……いいよ」
自室から椅子を持ってきて、リドルの隣に腰かける。「あっ……!」「よし……!」「うわっ……!」「えっ……!」などと無意識にかリアクションしてしまう様は、存外ゲーム実況に向いているのかもしれない。その横顔を見守っていると、とうとうその瞬間は訪れた。
『まだ勝てるとか思ってんの~ッ!?』
「や、やった……っ!! やったああ!!」
椅子から飛び上がったリドルは、その勢いのままトレイに抱きついた。興奮して跳び跳ねそうなその背中を、トレイはぽんぽんと撫でる。
「白熱した戦いだったな! おめでとう!」
「これでやっと次に進める……!」
さっきまで満開の笑顔で喜んでいたかと思えば、今度は闘志を燃やしている。くるくる変わる表情を堪能できるのは、隣にいる人間の特権だな、とトレイはそれを噛み締めた。