骨を埋める/駆け寄る純情 (Web拍手お礼ログ) - 2/2

駆け寄る純情

 

「あ、サレオスさん……!」
ソファを立って、ネフィリムがとたとたと駆け寄ってくる。オリエンスやサキュバスと談笑していたのだろう。アジトの広間にはその他にも何人ものメギドがたむろしていたが、サレオスが入ってくるのを見逃さなかったらしい。
よお、調子はどうだいと片手を上げながらも、サレオスは苦笑した。
「どうした、ネフィリム?」
「その……何かあるわけじゃないんですけど」
「話を中断してまで来ることはないだろうによ」
「でも……」
「俺以外にも話せるメギドができたんだろ? 大事にしなよ」
「じゃなくて……うぅ……」
ネフィリムはすごすごとソファへ戻っていく。一部始終を見ていたサキュバスが、ふうん、と首を傾げた。手元で軽く相性を占うと、指先に青色のハートが灯る。
(お節介かなあ、でもちょーっと気になっちゃうよねェ)

数日後、誰もいない廊下で偶然サレオスとすれ違ったサキュバスは、好機とばかりに声を上げた。
「ねーえ、ちょっといい?」
「何だい? お前さんが俺に用なんて珍しいな」
「ネフィリムのこと! どう思ってるの?」
「どうって」
「どう見てもあんたのことが好きでしょ! あんたが来たらすぐ見つけて飛んでいくのに!」
「『懐いてる』くらいじゃないか? たまたまヴァイガルドに初めて来た時に縁があるってだけで……。それに、この頭じゃ見つけやすいだろうさ」
鈍感! とサキュバスは地団駄を踏みたくなる。
「も~、相性が【悪い】のって、あんたがあの子を遠ざけてるからじゃないの?」
「……」
サレオスはふ、と微かに笑った。細められたアーモンド型の瞳は、彼がネフィリムから受け流しているものを雄弁に語る。鈍感なのではない、とサキュバスに悟らせるに十分な笑みだった。
「それでいいじゃねえか。この広いヴァイガルドで、いつまでも俺だけに引っ付いてて良いことはねえだろ」
マルバス。オリエンス。スコルベノト。ベバル。ジズ。コルソン。アガシオン。あのヴィータの仕立て屋の男。そして、こうして心配して首を突っ込んでくれるサキュバス。ネフィリムがこちらで他者と築いた関係はこうも豊かになってきた。
サレオスには相性占いのことはよくわからない。けれど、自分に固執するよりも、もっと世界を拡げて選択肢を増やし、より【良い】他者を見つけ出す方がネフィリムのためだと思っていた。
「あんたがそのつもりでも、あの子に離れる気がなかったら……どうする? 用がなくても話したいとか、相性が悪くても一緒にいたいとか。そういう気持ちって、すっごく強いんだから。見くびらない方がいいと思うけどォ」
「別に見くびっちゃあいないが……」

「いや、やっぱり見くびってたのかもな……」
「サレ、オス、さんっ! やっと、お話できますっ……!」
どすどすどす、と巨大化状態のまま大地を揺るがして駆け寄ってきたネフィリムに、驚く隙もなく鷲掴みにされながらサレオスはやっと反省した。
息をきらせて、頬を赤く染めて、瞳を潤ませて。それはまるきり、恋するヴィータの顔で。柔らかい手のひらにしっかり捕まえられては、向き合わないわけにはいかなかった。
あの、えっと、と何度も唇を震わせるネフィリムに、サレオスはにかっと笑った。
「ゆっくり話しなよ。いくらでもきいてやるから、な?」
まずは、どうして恋なんてものを知ったのか。その相手がサレオスでなければいけない理由は、ずっと後でいい。