荒くれパイロット×お嬢様艦長
※包囲作戦前夜の時系列です
※存在しないロボットアニメ(※)の存在しないキャラクターの存在しないカップリングの存在しない二次創作です ※メインパイロットの8割が女性のロボアニメ(仮タイトルだと『機動戦士ガンダム イヴ』って書いてあった)
野営地の篝火の下で、都市の中央から来た偉いオッサンが演説をしている。
頭を吹っ飛ばされた前の司令官や、アタシがボコボコにしたもっと前の上官よりはマシに見えるが、それでもアタシはなんだか白けてしまって、演説を聞き流しながらみんなの横顔を見てる。
--諸君らの功績は予想以上であった。
--それを認めて、この重大なる大作戦の切り込み役を任せよう。
--これが成功に終われば、長きにわたる戦いがようやく終わり、都市と都市との間に平和が訪れよう。
ウチのエースは、真剣な目でそれを聴いている。歌姫は、少し不安そうだ。でもその手をエースが握ってるから心配はいらない。おチビは眠そう。そろそろ寝かせてやらないと明日の作戦でパフォーマンスを発揮できないぞ。すると隣に立っていた姐さんが、もたれて寝ていいよって言わんばかりにおチビの頭を抱き寄せた。
隣に立つアイツは、少し涙ぐんでいる。マジかよ、と思いながらも、その瞳の中にちらつく炎から眼を逸らせない。
「余所見はお止めなさい」
当の本人がこちらを見て、ほとんど口パクで囁く。アタシはニヤッと笑う。これは後で説教だな。そう思うと、ますますにやけてくる。
「もう! どうしてあなたという人はそうなんですの? 我が部隊の品位が問われましてよ」
明日に備えて寝るぞ、というところでやはり一人呼び出された。いつもはひっつめられている巻き毛が下ろされて、寝間着代わりのインナーの襟ぐりに垂れている。
「ドサ回りの部隊に品位なんてあるもんかよ」
アタシはタバコに火をつける。これが最後の一服かもわからない。いつもは艦内禁煙でしてよ、と目くじらを立てる艦長殿が見逃してくれたのは、単に涙でよく見えないからかもしれないが。
「そこからようやくここまで認められましたのに……うう」
「……相変わらず泣き虫だなァ、アンタは」
「…ぐす、ええ、私だけが変われない。ですから私の願いは、この戦いであなた方が評価されて、もっといい指揮官の下につけられることなのです」
「……は?」
アタシはくわえタバコを落としかける。
華奢な鎖骨には始めの頃、細いが上等な金の鎖のネックレスが揺れていた。ここまでの道中、資金が底をつきかけた頃にこの女はそれを売ったのだ。奢侈を好み、生き汚く、口先だけの気品しか無かったこの女が、仲間のために身銭を切った。
それだけじゃない。投降しましょうだの死にたくないだの弱音ばかり吐いていたこの女はいつしか青ざめた顔で、交渉に臨むようになった。その眼の中には、アタシが好きな炎があった。
「ったく、冗談じゃねえ。いいか、一度しか言わねえからな」
アタシは、今や本当の気高さを得た女の前に跪いて相変わらず生っ白い手を取る。
「な、なんです」
「アタシが帰る艦には、アンタがいてくれなきゃだめだ。アタシの司令官は、アンタだけだよ」
「……あなたを満足させられる戦を、私、与えてあげられませんわ」
「アタシがアンタを地獄に連れていくんだ。今更逃げるなよ」
本当に怖いひとね、と言うくせに艦長はもう泣いていなかった。だから、アタシが帰る場所を教えてくれる炎が、よく見えた。