ニンジャスレイヤー/
ネヴァーモア×チバ
広い褥に横たわるのは、自分の小さな身体だけだった。再び瞼が降りそうになり、一瞬の夢を見る。ちっぽけな自分を俯瞰するような夢を。すぐに目を醒まし、身を起こした。目には部屋の調度品が主観的に映る。
「ネヴァーモア……?」
居るはずの従僕が不在だと言うことに気がついて、思わず呆けたように名前を呼んでしまった。すぐに我に返ると、再び室内を見回し、逆に部屋に誰もいないことに安堵した。
「ネヴァーモア」
今度は毅然とした声色で名前を呼び直す。咽が痛い。あまり大きな声を出せなかった。
ネヴァーモアが現れたのは、その38秒後だった。
「ハイ」
「遅い」
「スミマセン」
「それからお前は何度言えばノックを覚えるんだ」
「スミマセン」
ネヴァーモアは、手に小振りの盆を持っていた。その上にはガラスのタンブラー。当然のように、それをチバに差し出す。
「お前にしては気が利くな」
チバはこくりと一口水を飲んだ。微かに上下した細い咽をネヴァーモアが凝視していることには気がついている。
「少し寄れ。……もっと。もっとだ」
寝台に半ば乗り上げるほど近くにネヴァーモアを留めて、チバはもう一口水を含むと、何の躊躇いもなくネヴァーモアと唇を重ねた。ネヴァーモアは、メンポをつけていなかった。
「褒美だ」
「……あ、ありがてぇことで……」
硬直し、赤面する大の大人を軽く笑った。特別扱いしている自覚はある。ネヴァーモアの立ち位置を考えれば有り得なくもない成り行きだと思っていた。
「ああ、それから」
チバはフートンの下を探る。目当てのものを見つけるのにはしばらく時間がかかった。
「忘れ物だ」
黒金のメンポを、サイドボードの上の盆の上にゴトリと置いた。