ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート
ワンライ参加作品 お題「ウサギ」「雪見」「一歩」
オンボロ寮のゲストルームに最近設置された家具に、【こたつ】がある。東方の暖房器具だというそれは、監督生にとっても馴染み深いものだったらしい。天にも昇る暖かさ、安らぎと団欒の象徴、寒い冬に差す光明、設置型の楽園——その素晴らしさをグリムにも説くと、瞬く間にDIYしてみせたという。そして炬燵は、あっという間に監督生とグリムとエース・デュースを呑み込んでしまった。あまりに二人が寮の門限ギリギリまでこたつでダラダラしているので、トレイやリドルは二人を迎えに行くことさえあった。
「まったく、だらしのない!」
「まあまあ。暖房はついているが机は机だろう? きっと勉強も進んだだろうさ」
「ちゃ、ちゃあんと課題やってましたよ! な、デュース!?」
「…………んぐっ」
「お、起きろバカーーー!!」
そんな出来事のせいで、リドルの中でこたつは【堕落の象徴】として刷り込まれてしまった。時折自習室や読書室としてゲストルームを訪れることがあっても、けして入ることはない。勝手に、トレイもそうだと思っていた。
「今日は一段と冷えるな、リドルも入ったらどうだ?」
「……」
リドルは、こたつにあたるトレイを裏切り者でも見るかのごとくジト目で見据える。確かに、窓際のソファーはひどく寒く、コートをブランケット代わりにはしてはいるが熱源が無いので限界がある。これでは読書どころではない。
「……嫌だよ、床に直接座るなんて」
「ラグを敷いてあるから直じゃないぞ。ピクニックみたいでいいじゃないか」
「でも——」
「あーあーアー……『リドル、オイデヨ』」
「!?」
こたつの、トレイが座っているのとは別の辺から白いぬいぐるみがひょこりと顔を出す。眼鏡をかけた白兎もまた、ゲストルームの調度品の一つだ。リドルはよく、それをクッションのように膝に抱いて読書をしていた。その風景をかわいいと思っているのはトレイだけの秘密だった。
簡単な実践魔法でぎこちなく動かして、裏声で声を当てる。かつて弟妹相手にしたのと同じように。
「『リドル、風邪ヒク、シンパイ』」
「……まったく、キミにまで誘われては仕方ないね」
リドルはウサギを拾い上げると、こたつ布団にできたウサギ穴ではなく、トレイの隣、同じ辺に腰をおろした。
「また、キミにダメにされてしまうな……」
「たまには悪くないだろ?……お、寒いと思ったら」
窓の外には雪花が舞い始めていた。リドルは読書を再開するでもなくそれをぼう、と眺めている。トレイはリドルのすっかり冷えたつま先に自身の暖まったそれをそっと寄せた。こたつが暖めきるより先に、自分の熱を移すように。
「……これは……よくない……寝てしまうよ……」
「疲れてるんじゃないか? 少ししたら起こしてやるから」
睡魔に負けてうつらうつらとし始めたリドルの頭を、トレイは自分の肩に引き受ける。
この後、雪遊びでぐっしょりと全身冷やした一年生達が飛び込んで来ても、リドルは寝入ったままで。トレイはそっと人差し指を立てるのだった。