なんでもない日の真ん中で

ツイステッドワンダーランド/トレイ・クローバー×リドル・ローズハート

【トレリドまんなかバースデーの過ごし方】参加作品

恋人同士であるトレイとリドルは、2人で "まんなかバースデー" を祝おうとしていた。ところが、リドルのオーバーブロット後最初の「なんでもない日のパーティー」と日程が被ってしまう。

 

 

8月24日と10月25日の両側から一つずつ塗りつぶしていくと、残るのは9月24日、日曜日。印刷したカレンダーのその1マスに、リドルは丸をつける。

オーバーブロットをきっかけに恋人同士になった二人が初めて迎える記念日は、当初トレイの誕生日と思われた。だが、トレイがその前に、と提示したのが『真ん中バースデー』というものだった。互いの誕生日の間に新たな記念日を創出する試みに、リドルは胸を躍らせた。どちらかだけが主役ではない、二人のための記念日。

その日は二人きりで祝おう、と決めたのだが。

「我らがリーダー! 赤き支配者! リドル寮長のおなーりー!」

リドルの回復後最初のなんでもない日のパーティが、その日程で行われることになってしまった。なぜなら翌日は平日で、前日には誕生日の寮生がいる。エース・トラッポラである。『しばらくは誕生日じゃない』とは何だったのか。とにかく何でもない日の休日は、もう9月24日しかなかったのだ。お茶とお菓子の準備に、カトラリーや庭園、クロッケー用の動物たちの確認、予算調整。そしてリドルはトレイぬきでタルトの練習。やらなければならないことが山とあった。

周囲はトレイとリドルがつき合い始めたことなど知る由もない。誠意を見せる大事なタイミングだ。二人は恋人としてよりも、寮長と副寮長として過ごすことを選択した。

準備の時も、パーティーが始まってからも、二人の周りには断続的に人混みができている。とても二人きりとは言えないな、とトレイはひっそり苦笑いをした。

「あのっ……生卵を投げて……すみません、寮長には補習してもらったのに——」

「いいや。謝らないで。これまでのボクは度を越していた」

「寮長……! リドル寮長ばんざーい!」

「……はっ、俺は認めねえからな……」

「それでもいい。これからのハーツラビュルを見ていて」

「……けっ」

「まったくおめでてえな……」

ぽつぽつと、リドルに何か言いたいことがある寮生が近寄ってきては思いの丈を吐露していく。遠巻きに聞こえよがしに文句を言っている者もいる。渦巻く声を、リドルは一身に受け入れていた。口を挟まず、トレイはその横顔を見つめていた。

「副寮長! すみません、追加の料理なんですけど、ちょっと失敗してるかもしれなくて……」

「わかった。今行く」

「表面は火が通ってるんですけど、中が生かもしれなくて……本当にすみません、僕が作りたいって言ったのに……」

「……ああ、それなら十分リカバーできるぞ。気にするな」

リドルはトレイを頼る寮生に呼ばれていく背中をそっと視線で追う。これまでもずっと、あの柔らかさに助けられてきた。あれほど欲しくてたまらなかった優しさが、いつしか当たり前になってしまったことに、オーバーブロットしたことで気づかされた。その思いを、二人きりの保健室で告げずにはいられなかった。

あの日引き離された、思い出の中の幼馴染にだけ恋をしたわけではない。模範となって寮生を率いるプレッシャーの中で凛と胸を張る寮長に、並び立って支えてくれる副寮長に改めて恋をしたのだ。大勢に囲まれて過ごす中で、一層の特別な感情が、胸の奥で燃えていた。

薔薇の塗り残しやしょっぱいイチゴタルトというアクシデントもあったが、何でもない日のパーティは盛況のままに終了した。リドルの部屋で夜のハーブティーを飲みながら、やっと二人きりの時間がやってくる。

「実は何でもない日じゃない、ボクらにとっては特別な日なんだって言ってしまいたくなったけど」

「いいか、リドル、”絶対ないとダメ”じゃなくて……」

「わかってるよ。これはこれで、いい一日だった。……来年も再来年もその先も、特別な一日だといいな」

なんのしこりも感じなかったわけではない。一切が許されたわけではない。それでもここから再出発していこう。破綻を乗り越えて新たな門出を迎えた二人にとって、9月24日は特別な一日になった。

「……えっ? 次は3月25日じゃないのか?」

「そうか、そっちも“真ん中”だ」

笑いあった二人は、次の二人の記念日を楽しみに、おやすみのキスをした。