裏腹な相貌
傭兵はいつも裏腹だ。宵越しの金は持たない、と言いながら備蓄は堅実に保つ。闘争を求めながら、雇い主からの報酬がなければ動かない。それが信用ならなくて、傭兵という生き方をかつてのウァレフォルは選べなかった。金は全て宴に消え、誰にも雇われない盗賊の方がまだ筋が通っているように見えた。
それが今では盗賊を廃業し、『傭兵のようなもの』と名乗っている。わからんものだな、とウァレフォルは黒い半月刀の血曇りを拭う。稼業を変えたところでやることはそれほど変わってはいない。二ふりとも手入れを終えてベルトに通したところで、自分の腿に頭を預けて眠る男を見る。顔を覆う派手な帽子を取ると、若草色の瞳がぱちりと開いた。
「ずっと起きていたんだろう?」
「俺なりの心遣いさ。じっと見られちゃ気まずいかと思ってな」
「じっと見るほど面白いものでもあるまい」
「いや、意外と見飽きないもんだ」
「それは口説き文句か?」
イポスはまさか、と否定しかけて——ふむ、と考え込む。そして身を起こすと、ウァレフォルの頬に手を添え、戦利品を検分するように顔立ちを眺める。
「おい、やめろ」
そう言いながらも、ウァレフォルは振り払いもせず大人しくされるがままに首を傾けている。だからイポスは、長い睫毛にふちどられた紫水晶の瞳を数秒かけて覗き込んだ。
「そう受け取ってくれていい。俺はお前の顔が結構気に入ってるんだぜ。特に目がいいな」
「……片方貴様が壊しただろうが」
「だからさ。——あれが永遠に俺だけのものだと思うと、たまらねえ」
イポスは眼帯に覆われた眼窩に口づけをした。それが離れていくと、今度はウァレフォルの方から唇を重ねる。これもまた、裏腹だ。お互い異性に興味がない風なくせに、何度も身体を重ねていることも。かつて切り結んだ距離をこんな形で越えていることも。だがもうウァレフォルは、そんなことに頓着してはいなかった。
「しょうがない、今日は口説かれてやろう」
「そいつは嬉しいね……っと」
ウァレフォルの方から押し倒して馬乗りになると、お返しとばかりにイポスの顎を掴む。髭をざり、と爪で撫でた。
ウァレフォルもイポスの顔は嫌いではない。柔軟に表情を変えながらも、腹の底では何を考えているかわからない食えなさが、気に入っている。それを伝える気はなく、誤魔化すようにもう一度唇を奪った。