かわいいサイズ/XYZ(Web拍手お礼ログ) - 2/2

XYZ

※成人後同棲設定

 

無色透明の液体が入った瓶と、褐色の瓶、そして淡いイエローの液体が入った瓶。それらをどうしようかと、トレイは夜のキッチンで考えあぐねていた。
NRCを卒業して数年。トレイは歯科の魔法医術士として働いている。パティシエの進路は取らなかったものの、大切な趣味と、一緒に暮らす恋人を慰撫する実用を兼ねて製菓は続けている。しかし、たまに趣味の限界を感じることがある。それが、材料の管理だった。
「ホワイトラムにコアントロー、レモンジュースか……どうしたもんかな……」
ラムとコアントローは焼き菓子やケーキの香り付けのために買った酒だ。40度もの度数を誇り、冷凍庫に入れても凍らない。そのため保管期間の心配はあまりないが、冷凍庫のスペースも二人暮らしでは限界がある。
レモンジュースはレアチーズケーキを作るために買ったものだが、ジュースといっても砂糖類は一切入っていない果汁そのもので、これ単体で消費するのは難しい。その上こちらは足が早い。さっさと使いきりたいのだが、どうしても少し残ってしまっていた。
「トレイ? 何してるの?」
リドルがワクワクとした顔で覗き込む。明日の休日おやつの仕込みか、と少し期待しているようだ。湯上がりの少し上気した肌、パジャマの襟ぐりからのぞく細い首筋はいつ見ても眩しい。
「使いきれなかった材料の処分を……ああそうだ、リドルは結構酒飲めるよな?」
「キミよりはね」
リドルは意外にも酒に強い。好んで飲み歩くということはなく、種類にも明るくはないが、以前二人でバーにいった時はトレイの数倍は飲んでけろりとしていた。反対にトレイは下戸である。乾杯の一杯目と、その次の二杯目で、大抵の飲み会は終わりだ。どうしても飲みたい時はもう少し飲むこともあるが、翌日や帰路に支障を来すので滅多にそんなことはしない。
「一杯飲んでみてくれないか? 明日は休みなんだし」
「キミが作るものは何だって美味しいけれど……お酒?」
「まあ見ててくれよ」
怪訝そうにするリドルの目の前で、トレイはボウルにラムを大さじ2、コアントローを大さじ1、レモンジュースを大さじ1入れた。そこに大きめの氷を一つ入れ、マジカルペンを向ける。
「……わあ……!」
ボウルの中のものたちが空中にふわりと浮いた。ぐるぐるぐるぐると、氷を中心にして2種の酒とレモンジュースが目まぐるしく回転して、冷やされながら混ざり合う。数秒魔法でシェイクした後、氷はボウルに戻り、XYZという名のカクテルになった酒はグラスへと注がれた。
「どうぞ」
「シェイカーも無いのに、よく作れたね」
「前にケイトがバーで働いてた時、やって見せてくれたことがあるんだよ」
見よう見まねでやってみたらできた、とトレイは事も無げに言った。
この家にはシェイカーもなければ、専用のメジャーカップもない。勿論カクテルグラスもないので、注がれているのはごく普通のコップである。そのため60ml程度で作られたカクテルの水位は一見して寂しくなるほど低い。けれど27度とまだ高いアルコール度数のためには、それが適量だった。
冷えているうちに、リドルはそれを飲み干した。強いアルコールを、ラムやコアントローの甘みやレモンの清涼感が縁取っている。シェイカーで作ると、腕前によっては氷が割れて水っぽくなってしまうこともあるが、この製法ではその心配もない。
「うん、美味しいよ」
「本当か? 製菓用の酒だからそこまでじゃないかと思ったんだが」
「カクテルっていうのはそういうお酒を美味しくする技術なんだろう? もう1杯欲しいな」
仰せのままに、と気取ってもう一度同じ手順を繰り返すトレイを、リドルはじっと見つめた。見つめる視線に熱がこもるのは、アルコールのせいだけではないだろう。バーテンダーはモテるという俗説があるが、確かにトレイがマジカルペンを素早く慎重に振る仕草は目を見張るほどに格好いい。これは正当なバーテンダーのやり方では勿論ないのだが、いつか銀のシェイカーを振るトレイも見てみたいな、と思ってしまう。きっと鍛えられた腕のラインがとても映える。
「ほら、強いからってあまり飲みすぎるなよ? これで全部使いきろうなんて思ってないんだから」
ラムはラムレーズンに、コアントローはオレンジケーキに。レモンジュースだけが悩みどころだが、処分もやむを得ないだろう。
そう告げても、リドルからの反応は薄い。
「リドル————ンむっ!?」
勿体ないことを言ったかと顔を覗き込んだトレイの唇が塞がれ、口の中に27度のアルコールが流れ込む。そのままじりじりとキッチンの壁際へと追いやられ、舌と舌が乱暴に絡められる。口の端から、唾液か酒かわからないものがつたった。
「っ、は——っ」
「ねえ……トレイ?」
リドルは酒を飲んでも潰れることはない。ただ多少、かなり、大胆になってしまうだけだ。酒で全くの別人格になるということはなく、普段はセーブしている部分が表に出ているだけだと考えると、この甘えたで大胆なリドルがトレイは愛おしくてたまらない。口に出しておねだりされる前に唇を塞ぎ返しながら、トレイはラムとコアントローを後ろ手で冷凍庫にしまった。
酒が入るとお互いグダグダになってしまうので控えたいところだが、トレイの服の裾を掴んでとろんとした目付きで見上げるリドルに逆らえるはずもなく。トレイはリドルのパジャマを脱がしながら、寝室にもつれ込んだのだった。