ショットガンシャッフルを5回(子育て時空ショート) - 3/5

ハロウィーンの坂

 

 

二年生の時、俺、ハロウィーン実行委員だったでしょ? ……そうそう、ハーツラビュルが廃ホテルマンのゴーストの仮装してた年ですよ。実行委員の仕事で、迷子を一人保護したんです。生意気っぽい女の子でしたね。お目目きりっとしててスケルトンの仮装してて。物怖じしなくて、迷子になってるってのに堂々としてて。なかなか保護者が迎えに来なくても、ちっとも焦んないの。『一人でも平気だからもっとハロウィーンの展示を見たかったな』なんつってね。その後もちょくちょく迷子センターには行ったけど、他の子たちが入れ替わってもまだいる。かわいそうになっちゃって、スマホでハロウィーンウィークの写真を見せながら結構話してたんです。その年のを見せ終わっちゃって、前の年のを引っ張り出すときになっても親御さんは来ない。トレイ先輩の写真を指差して『パパに似てる』って言う顔は、流石に少し寂しそうだったかな。見た目? そういえば髪の色とか似てたかも……すごい偶然っすけど。でもトレイ先輩がパパっぽい雰囲気なのも大きかったんじゃないかな。あ、悪口じゃないですよ!

そんなこんなであっという間に閉門の時間になっちゃって、門の外で待たなきゃいけなくなっちゃったんです。流石に出てくところで捕まえられるでしょ、って。でもね、とうとうその子の親御さんは通らなかった。警察に届けなきゃいけないのかな~やだな~って思いつつ、『あー、こんなことになっちゃって残念だったね』って言ったら、その子、『でもエースが相手してくれたから退屈しなかったよ』って言うんですよ。あれ? 名前教えたっけ……? ってなってたら、校門前の坂の下で何かが一瞬チカチカっと光ったんです。それを見て『あっ、パパだ』って……何か他のものでも見えてるみたいに真っ暗な坂に駆け出していって……。俺がもう一回魔法で照らしたら、その子はもういなくなってました。もう超! 焦って! 他の連中の手も借りて、崖の下まで探しまくったんですけど、いなくて。オルトにまで来てもらったけど、『エース・トラッポラさんが言う子供の痕跡が見つからないよ!』って言うんです。崖の下どころか、迷子センターにも。俺、連れてった時確かに手続きとかしたはずなんですけど! 人騒がせな、ってブツブツ言われるし本当に解せなくて。そしたら監督生が、『うちの方では坂はあの世との出入り口、って話もあるけど』って言うんです。そこでやっと、ゾーッとしたんです。ゴーストなんて見慣れてるはずなのに。あまりにも人間っぽかったから……。

 

 

 

その話がトレイとリドルの耳に入った時には、エース定番の怪談話になっていたらしい。淀みなく語り終えた後、しばらくの間しんみりとした空気になった。母校のハロウィーンウィークを訪ねた後、麓の町での飲みの席のことだ。

「実際には死人が出ていなくてよかった、というべきか」

「子供のゴーストの話は胸が痛むね……」

「それはそれとして、トレイくんと同じ髪の色にキリッとした目、自信満々な態度……って、まるで二人を足して二で割ったみたいだね」

「案外、あの世からじゃなくて未来から来てたりしてな」

「だったらスッキリするんだけど」

そうして笑い飛ばしたエースがその少女に再会するのは、さらに数年後のことだった。