2.治安の悪い環境、裏社会、ゴロツキ→トレリド
絶え間なくクラクションや判然としない罵声が鳴り響き、猥雑なネオン看板がまばらに照らす路面は汚れやひび割れが目立つ。そんな街を仕立ての良いスーツを着た小柄な男がまっすぐに歩く。チンピラ然とした男が、わざと幅を取るような歩き方をしながら案の定小柄な男にぶつかると、どこ見てやがるてめえ、と凄んだ。
「不注意なのはキミの方だろう。それに……ボクもナメられたものだ」
「なっ……! い、いでぇっ!?」
瞬間、チンピラの着ていたシャツがひとりでに捻り上がって間接を締めつけた。懐から、高級な革財布が落ちる。
「いいかい、やるならもっと上手くおやり。……手品のようにね」
チンピラはよくよく見ればまだ二十歳になるかならないかだろう。小柄な男が温情で魔法を解いてやると、叫びながら無様に逃げ去った。
「リドル! ……あんまり一人で出歩くなよ」
小柄な男の名は、リドル・ローズハート。違法魔法士戦闘賭場から身一つでのしあがった男。彼は法を知るがゆえに、その犯し方も熟知していた。優等生としての所作を残しながら、彼はすっかり堕ちてしまっていた。
「キミがあんまり遅いから仕方がないだろう」
裏社会へ現れる前のリドルの面影を知っているのは、高級車で乗り付けた腹心、トレイ・クローバーだけだ。
「今のが鉄砲玉だったらどうする?」
「だとしても何も変わらないよ」
死際を選べる気でいるのは、強い悪党特有の驕りだ。トレイはその最期を、逃したくはなかった。