3.都合のいい夢を振り切ってつらい現実に帰るやつ→レオナ・キングスカラー
夢も見ないくらいよく眠れる薬を寄越せ、と半ば脅すように言ったのにそれが通らなくて、レオナは保健室を不機嫌に去った。カウンセリング無しには出せない、と言うが、誰にも己の胸のうちの話をする気にはなれなかった。
今日の夢は、己の顔が紙幣に印刷されている夢だった。昨日の夢は、都市開発の指揮を取っている夢だった。いつだって夢の中では全力を尽くして、それが報われて、大勢の人に認められている。自分を仰ぎ見る人々の顔が、どれも満ち足りている。うっとりするほど甘い夢だ。だがレオナは毎回すぐに、これは夢だと気づいてしまう。
明日もまた、甘い夢を見てしまうのだろうか。それはレオナにとっては苦痛でしかなかった。彼は現実に絶望しつくしている。己の願いが叶わないことを知っている。だのに脳は夢を見せる。幻想でしかありえないと、余計思い知らせるかのように。意識の上では己や世界をよく知っているつもりでいても、脳という臓器一つすらままならない。
ただ気持ちよく眠りたい。鬱陶しい夢は見たくない。それだけなのに。それすらも許されないと、いうのだろうか。
植物園のいつもの場所に横たわる。暖かい空気、葉に遮られた日差し、誰もいない静けさは相変わらず眠気を誘う。ひたすらに無を願って、そっと目を閉じた。
だがもし、もしももっと現実と混同するような夢が見られたなら。実現できるかもしれないと思える夢が見られたなら。そのきっかけになる他者が世界にいるのなら。そいつになら、眠りを妨げられても悪くはない。