性癖パネルトラップログ - 4/8

4.体格差→ケイト・ダイヤモンド

ブランコの鎖も、地面に落ちる遊具の影も、何もかもが長いように思えてならなかった。『新しい学校でもがんばって!』のカードがついた花束をぐっと握りしめる。その頃のケイトには、まだ人との別れをやり過ごすことができなかった。嫌だ、と思っても抗うことはできず、けれど受け止めることもできない。学校から家への帰路も、通りすぎてしまえばケイトの中からはもう永遠に失われてしまうのだと思うと、この公園から動くことができなかった。
「あれ、ケイトじゃん」
「弟?」
「うん。……まったく、仕方ないなあ~……。ごめんね、ここでバイバイ」
「えーっ! 最終日なのに~!」
「手紙と電話するって! またね!」
友達らしき少女たちと別れて、姉たちが駆け寄ってくる。
「もう、母さんたちが心配するでしょ」
「ほら、帰るよ」
その時、ケイトには姉二人がとても大きく、力強く思えた。自分よりも背の高い二人に挟まれた影が、トートバッグかなにかのように小さく思えて、引きずられながら畏怖を感じていた。

帰省するなり溶かしバターとバニラシュガーの香りがして、ケイトは内心でうへえ、と舌を出した。
「ああ、ケイト。おかえり。あんたこれ好きでしょ」
「あー……うん」
姉のうち片方が、何かの生地が入ったボウルを混ぜている。かと思えばいきなりあっ! と声を上げて、それを作業台に置いた。
「天板を出すのを忘れた! もうすぐ余熱が終わるのに……。ケイト、脚立を取ってきて。まったく、この家の収納、本当に微妙~……」
「天板ってこれ?」
事も無げに吊り戸棚から板を下ろしたケイトを見上げて、姉は「そう、それ」と頷いた。
ケイトは、もう目線よりも低い位置にある頭を、姉が「は? 何ぼーっとしてんの?」と言うまで見つめていた。確かにあの頃は、自分よりもずっと大きな身体に畏怖と、そして安心を感じていたのだ。姉たちが引きずってくれなければケイトはいつまでもあの公園から動けなかっただろうから。