性癖パネルトラップログ - 5/8

5.生活感→ルーク・ハント

ポムフィオーレの洗濯室は、いつも様々な石鹸の匂いが漂っている。手洗い表示を守る寮生たちが洗面器の中で手を動かし、ぬるま湯の水面を波打たせていることも珍しくはない。ただルーク・ハントに初めて遭遇した一年生はぎょっとしてしまう。人間離れして見えるこの人も、生活をしているのだ、と。
ルークが現れたその時洗濯機は全て稼働していて、使いたければ洗濯機一つ一つに吊り下げられた予約ボードに名前を記入しなければならない。ルークは迷わず奥から二番目の洗濯機へと鼻歌交じりに歩み寄ると、ホワイトボードマーカーでサインした。「やあ! 隣に座ってもいいかな?」洗濯機の前に設えられたベンチに座っていた一年生に、片手を上げて挨拶をする。まさか首を横には振れない下級生ににっこりと微笑んで、すぐ隣に腰をおろした。洗濯カゴとは別に携えていた、洗濯用品のカゴから一冊の文庫本を取り出すと、お気に入りであろうページを栞なしに開く。
「あの……ハント副寮長、一つお聞きしても?」
「何かな?」
「これは純粋に疑問に思っただけなので、気を悪くしないで欲しいのですが——あなたはなぜ、この洗濯機を選んだのですか?」
「というと?」
「待ちが少ない洗濯機は他にもあると思いまして……もっと干場や乾燥機に近いものですとか」
「ああ、それは私の単純な好みさ。この洗濯機が、一番香りが少ないんだ。みんな思い思いに好みの柔軟剤を使うだろう? 私は無香料のものを使っているけれど……」
ピーピー、と会話に割り込んで洗濯機が鳴く。一年生は会釈をして、洗濯機の扉を開けた。ただ彼自身が選んだ柔軟剤の香りがするだけで蓄積した香りの多寡など感じとることはできなかった。振り向くと、「ね?」と、ルークがウィンクをしていた。