性癖パネルトラップログ - 7/8

7.ちっぽけさ→オネギデ

ファーッハッハッ、ヒーッヒッヒ、ゥウ…………。尻すぼみになっていく笑い声は、最後の方は呻き声に似ていた。安ワインを飲み干して、フェローは中身のない笑い声を上げ続けている。さすがに心配になったギデルがその背中をさすってやると、フェローはゲホゲホと盛大に噎せた。それから、むぎゅうとギデルを乱暴に抱きしめる。
「ああ、ギデル! 俺たちの未来は明るいぜ! なんてったってこんなでけえ船に乗ってるんだ! ちょろいガキどもを誑かして船に乗せちまえばそれでいい! それだけでいいんだ!」
闇雲に前を向く言葉に、ギデルはうんうん、そうだね、と頷く。——本当に? と後ろから囁く声には耳を塞ぐ。フェローだってその声を聞きたくないからこうして酒を飲んでいるのだ。なのに今日は捕まってしまったようで、ギデルを抱きしめたまま、しくしくと悪態をつき始めた。ギデルのぼさぼさの毛並みに、雫が落ちる。これでも、ギデルには泣き顔を見せまいとしているのだ。抱きしめる力は一層強まる。
「ちくしょう、俺たちはいつまでこうなんだ、俺はいつまでお前を——」
酔ったフェローの気分は、まるでエクスペディション・ホエールのようだ。違うのは、レールがちゃんと繋がっていないこと。落っこちた先には何もないこと。だからそれを受け止めたくて、ギデルは無理矢理に顔を上げると、背伸びをしてフェローの口を塞いだ。
つらい、つらいね、でも大丈夫だよ、とキスをしながら背中を撫で続ける。この大きな船で、それよりもぞっとするほど広い海で、どこへ行くのが正解なのか、どうすれば本当の“大丈夫”が得られるのか、ギデルにはさっぱりわからなかった。ただできるのは、身を寄せあって縮こまって、互いの存在を確かめ合うことだけだった。全ての不確かな物から、必死に目を逸らしながら。